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金沢地方裁判所 昭和39年(行ウ)9号 判決

原告 莇昭三 外三名

被告 石川県知事 外一名

訴訟代理人 川本権祐 外二名

主文

原告らの被告石川県知事中西陽一に対する訴を却下する。

原告らの被告株式会社金沢ヘルスセンターに対する請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

(被告県知事中西に対する請求について)

地方自治法第二四二条および第二四二条の二の各規定による普通地方公共団体の長若しくは職員に対する違法確認の訴は、同法第二四二条の二第一項第三号、第二四二条第一項に掲げる「当該怠る事実」即ち「違法に公金の賦課もしくは徴収もしくは財産の管理を怠る事実」についてのみ認められていることが明らかであるところ原告の主張によれば、本件訴は、要するに、被告県知事中西は、住民全体に対する公平な行政と防災事業の緩急について公平な施策をする義務があるにもかかわらず、一営利企業にすぎない被告金沢ヘルスセンターの利益のために本件砂防工事をなし、これが工事費につき原告ら主張三の(2) のとおりの昭和三九年度の予算を計上し、前記決算額六、三七〇、六〇七円の支払いをなしたので、同法第二四二条の二第一項第三号の規定に基づき、右支払いの違法であることの確認を求める、というにある。

しかしながら、右金員の支払が、前記「公金の賦課もしくは徴収を怠る事実」に該当しないことは明らかであり、また、前示「財産の管理」の「財産」には、現金が含まれないことは、同法第二三七条第一項、第二三八条第一項、第二三九条第一項、第二四〇条第一項、第二四一条第一項の各規定に照して明らかであり、さらにすでになされた公金の支出の違法確認を求めることは同法第二四二条の二第一項第三号の規定の予期するところではないので、結局において、被告県知事中西の前記金員の支出行為は、他の訴の対象となり得ることがあるにしても、同法第二四二条の二第一項第三号にいわゆる「怠る事実」の違法確認の訴の対象とはなり得ないものというべきである。

以上のとおり、被告県知事中西に対する本件訴は、不適法であるからこれを却下すべきである。

(被告金沢ヘルスセンターに対する請求について)

一、請求原因一の事実は当事者間に争いがない。

二、請求原因二の事実のうち、原告がその主張にかかる監査請求をなし、石川県監査委員がその主張のような決定、通知をなした点については、〈証拠省略〉によりこれを認めることができ、右認定をくつがえすに足る証拠はない。

三、そこで、被告金沢ヘルスセンターについての不当利得の有無につき判断する。

〈証拠省略〉によれば、本件砂防工事の結果、別紙図面中、朱線でもつて表示された位置に、砂防工事の間接工法である流路工が第一ないし第八床止を含めて完成され、〕状の横断面を有するコンクリート製の流路が出来上つたこと、被告金沢ヘルスセンターにおいては、右流路の側面コンクリートの上端部にまで同図面表示のように数本の排水管を引き、その経営にかかる水族館、食堂、大浴場、動物園等の下水または汚水を右排水管を通して前記流路に排水していたことを認めることができる。

しかしながら、〈証拠省略〉によれば、右砂防工事は、卯辰山周辺の砂層、礫層、泥層からなる未固結、軟弱な土質にがんがみ、右工事施行前から浅野川の一小支流として存在していた河川(正規の名称はとくについていなかつたが、右工事に関連して便宜上「東御影川」と名付けられた)への有害な土砂の流入を防止するための砂防工事が必要とされ、その目的のため昭和三八年度から治水のための砂防工事の一環として行われたものであることが認められ、とくに原告ら主張のように被告金沢ヘルスセンターの営業により排出される汚水等の排水路工事のために計画、施行されたと認めるに足る証拠は見当らない。そして、前掲証拠によれば、被告金沢ヘルスセンターとしては本件工事がなされなくとも汚水等の排水そのものについては前記河川を利用することが可能であることが窺われ、本件工事によつて完成した流路によつて特に利益を得たと認めるに足る証拠も見当らない。

そうとすれば、被告金沢ヘルスセンターが右流路に汚水等を排水しこれを利用していることは、単なる結果的ないしは副次的な現象であるにすぎず、同被告が本件工事費を負担すべき理由を見出し難い。以上の認定をくつがえすに足る証拠はない。

したがつて、被告金沢ヘルスセンターが本件工事費を負担すべきことを前提とする原告らの同被告に対する請求は、その余の点を判断するまでもなく失当であり、これを棄却すべきものと考える。

よつて、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判断する。

(裁判官 至勢忠一 石田恒良 白川好晴)

別紙〈省略〉

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